学会抄録紹介

2018年4月 第122回日本眼科学会

より良い視機能再生を目指したiPS 由来網膜の改良型移 植片開発の試み

1.目的

我々はこれまでにiPS 由来網膜組織が末期変性マウスに生着 し、ホスト双極細胞とシナプスを形成、電気生理学的及び行動試験にて 光認識能を回復できる可能性を示したが、シナプス形成効率から見ると 改善の余地はまだ大きい。我々はホスト-グラフト間のシナプス形成に 障害になると思われるグラフト内の双極細胞が遺伝的に変性する株を作 成し、移植後の特徴を解析した。

2.対象と方法

マウスにおいて双極細胞が発生後早期に変性していくと いう表現系を示す遺伝子を欠失させたiPS 株を作成し、網膜組織に分 化した。末期網膜変性モデル(rd 1)への移植後その生着及び成熟を 免疫組織学的に野生株由来移植片と比較した。また移植後の光反応を移 植後摘出網膜での多電極アレイを用いて改変株と野生株で比較した。

3.結果

遺伝子欠失株は野生株同様、移植後成熟し視細胞層を形成し た。改変株で視細胞の割合は有意に多く双極細胞は有意に減少してい た。改変株においてもホスト双極細胞とのシナプス形成が免疫組織学的 に示唆され、多電極アレイを用いた解析で、全照射光刺激に反応する神 経節細胞数は改変株、野性株との間で差がなかったが、変性網膜に見ら れる過敏性の反応が優位に減少していた。

4.結論

生着後ホストーグラフトシナプス形成に障害になると思われる グラフト内双極細胞をほとんど含まず視細胞主体となる改良型iPS 由 来網膜組織を作成した。

2018年4月 ARVO 2018 Annual Meeting

Detection of complement activators in immune attack eyes after iPS-derived retinal pigment epithelial cell transplantation

1.Purpose

To determine whether human induced pluripotent stem (iPS) cell-derived retinal pigment epithelial (RPE) cells (iPS-RPE) can express complement factors.

2.Methods

To confirm expression of complement factors in human iPS-RPE cells, flow cytometry, immunohistochemistry (IHC), ELISA, and quantitative RT-PCR (qRT-PCR) were performed for the following: C3, C5, CFB (Factor B), C5b-9 (membrane attack complex: MAC), CFH (Factor H), CFI (Factor I), CD46, CD55, CD59, clusterin, and vitronectin. iPS-RPE cells in the presence of recombinant IFN-γ, recombinant TNF-α, lipopolysaccharide, supernatants of naïve T cells, and T helper 1 (Th1) cells were also prepared. For the transplantation, after preparation of iPS-RPE cells from cynomolgus monkeys, the iPS-RPE cells (allografts) were transplanted into the subretinal space in monkeys. After surgery, transplanted monkeys were sacrificed for IHC evaluation of the retinal section and determination of complement factors (C3, C5, CFB, MAC, and C1q), cytokines (IFN-γ), and immunoglobulin G (IgG).

3.Results

Human iPS-RPE cells expressed complement activators and inhibitors. iPS-RPE cells highly expressed complement factors during inflammatory conditions, especially IFN-γ exposure including Th1 cell supernatants. In immune attack eyes after allogeneic iPS-RPE cell transplantation, complement activators such as C3, CFB, C5, and membrane attack complex (MAC) were detected around the host RPE layer, grafted RPE cells, inflammatory retinal lesions, and transplanted subretinal space. In addition, we observed a large number of C1q and IgG double positive and IFN-γ positive inflammatory cells in the retinal sections.

4.Conclusions

iPS-derived RPE cells greatly expressed complement factors. Thus, RPE cells might be activated and produce complement factors after exposure to infiltrating inflammatory cells in the eye.

iPS細胞由来3次元網膜移植後のシナプス形成の検討

1.目的

網膜変性モデル動物に対し、iPS細胞由来3次元網膜(iPS-3DR)を移植し視機能を回復するためには、ホスト網膜とのシナプス形成が必須である。 シナプスの評価には免疫染色が一般的だが、数や質を客観的に評価する方法は存在せず、移植後に形成されるシナプスが不完全であるため評価が困難であった。 そこで今回我々は、正常発達網膜でシナプスが形成される過程を解析することで、定量的かつ客観的に移植後のシナプスを解析する評価系を確立したので報告する。

2.方法

①発生段階の異なる野生型マウスB6Jの網膜において 、免疫染色でシナプス前・後マーカーを染色した。画像解析ソフトimageJを用いて客観的に染色部位を抽出し、統計ソフトRを用いて定量的にシナプスを判別及び評価するプログラムを作成した。またシナプス形成過程の画像的特徴を抽出した。 ②網膜変性モデルマウスRd1に、iPS-3DRを網膜下移植し、①で得られたデータをもとに解析し、移植をしていないRd1マウスと比較した。

3.結果

①シナプスが生後10-21日で急速に形成され、シナプスの形態が経時的に成熟していた。 ②移植後のRd1マウスにおいては、移植をしていない群と比較してシナプス形成の増加が認められた。

4.結論

iPS-3DR移植後のシナプス客観的評価が可能になり、移植後Rd1マウスでは移植細胞由来と思われるシナプス形成が起きていることが示唆された。

iPS 由来網膜色素上皮細胞の網膜下移植手術におけるマイコプラズマ眼感染症

1.目的

細胞移植治療の安全性を確立するために、病原微生物に感染したドナ ー細胞由来の感染症の診断法の開発が進められている。今回iPS 由来網膜色素 上皮細胞(iPS-RPE)のサルの眼への移植術後に急性の激しい眼内炎症を発症 した症例を経験し、その炎症の原因と病態の解析を行った。

2.対象と方法

症例はMHC 合致iPS-RPE 移植1 匹2 眼とMHC 不一致移植1 匹1 眼の正常カ ニクイザルで、他家移植を行った。術後の臨床経過をカラー眼底、蛍光眼底造 影、光干渉断層計 (OCT) を用いて観察した。手術1 か月後に対象をサクリファ イスし眼球を摘出し、眼球の病理検査を行った。保存移植細胞と硝子体液を用 いてPCR 法とBLAST 解析にて微生物の検索を行った。

3.結果

1 例目は、術後1 週目に移植部付近の網膜静脈炎が見られ、2 週目には 炎症で眼底透見不能になった。2 例目は術後1 週で移植部位の網膜下に強い滲出 病巣が確認され、2 週後には病巣が増悪した。移植細胞と採取した硝子体液の PCR 検査によりマイコプラズマDNA が検出され、BLAST 解析でM. Arginini が同定された。摘出眼球の病理検査では網膜循環障害、出血性網膜剥離および 多彩な炎症細胞の網膜への激しい浸潤像が観察された。

4.結論

マイコプラズマは免疫反応を起こす作用があり、移植細胞とともに眼内に侵入 すると強い眼炎症を引き起こすことが示された。術前の移植細胞の微生物同定 検査が重要である事が再確認できた。

2018年3月 第17回日本再生医療学会総会

移植網膜細胞を用いたマイコプラズマ迅速PCR 試験の検討

1.目的

細胞移植手術を行う際、細胞製剤の微生物汚染を否定することが重 要となる。我々は、移植iPS 細胞由来網膜色素上皮細胞 (RPE 細胞) の迅速マ イコプラズマ否定試験の導入を目指し、第17 改正日本薬局方 [17 局] に準拠し た核酸増幅法によるマイコプラズマ検出試薬の施設バリデーションを実施した。

2.方法

17 局記載の7 菌種のマイコプラズマ株(A. laidlawii, M. hyorhinis, M. pneumoniae, M. orale, M. fermentans, M. salivarium, M. arginini)の希釈系列(1, 10, 100 CFU/mL)を調製し、ヒトFf-I 株iPS 細胞由来RPE 細胞に添加した試 験検体を作成した。DNAを抽出し、17 局準拠のマイコプラズマ検出キット(Myco Finder:日水製薬)を用いて検出実験を行った。陰性対照にはマイコプラズマ非 添加の細胞懸濁液を用いた。

3.結果

マイコプラズマ7 菌種全てにおいて、100%の確率で100 CFU/mL、 10 CFU/mL が検出された。1 CFU/mL は0~75%の検出率であった。この結果 からMycoFinder による検出は、培養法の代替法として求められる10 CFU/mL を満たす感度を有することが確認出来た。なお、DNA 抽出からPCR 結果まで 140 分と迅速な判定が可能であり、その手技も複雑ではなかった。

4.結論

17 局記載の要件を満たした核酸増幅法を使用し、迅速・高感度かつ 簡便・低コストに実施できる移植iPS-RPE 細胞のマイコプラズマ否定試験系を 確立した。今後、臨床試験でその有用性について検討する予定である。

iPS 由来網膜色素上皮細胞の網膜下移植手術におけるマイコプラズマ眼感染症

1.目的

細胞移植治療の安全性を確立するために、病原微生物に感染したドナ ー細胞由来の感染症の診断法の開発が進められている。今回iPS 由来網膜色素 上皮細胞(iPS-RPE)のサルの眼への移植術後に急性の激しい眼内炎症を発症 した症例を経験し、その炎症の原因と病態の解析を行った。

2.対象と方法

症例はMHC 合致iPS-RPE 移植1 匹2 眼とMHC 不一致移植1 匹1 眼の正常カ ニクイザルで、他家移植を行った。術後の臨床経過をカラー眼底、蛍光眼底造 影、光干渉断層計 (OCT) を用いて観察した。手術1 か月後に対象をサクリファ イスし眼球を摘出し、眼球の病理検査を行った。保存移植細胞と硝子体液を用 いてPCR 法とBLAST 解析にて微生物の検索を行った。

3.結果

1 例目は、術後1 週目に移植部付近の網膜静脈炎が見られ、2 週目には 炎症で眼底透見不能になった。2 例目は術後1 週で移植部位の網膜下に強い滲出 病巣が確認され、2 週後には病巣が増悪した。移植細胞と採取した硝子体液の PCR 検査によりマイコプラズマDNA が検出され、BLAST 解析でM. Arginini が同定された。摘出眼球の病理検査では網膜循環障害、出血性網膜剥離および 多彩な炎症細胞の網膜への激しい浸潤像が観察された。

4.結論

マイコプラズマは免疫反応を起こす作用があり、移植細胞とともに眼内に侵入 すると強い眼炎症を引き起こすことが示された。術前の移植細胞の微生物同定 検査が重要である事が再確認できた。

2017年7月 第38回日本炎症・再生医学会

iPS 細胞関連網膜色素上皮細胞の他家移植への取り組み

現在iPS 細胞を用いた基礎研究が行われ、またヒト臨床試験が取り組まれ始めている。 我々の研究所ではヒトiPS 細胞由来の網膜色素上皮細胞 (RPE) の分化・誘導に成功し、2014 年に加齢黄斑変性患者にiPS-RPE 細胞シートが自家移植にて行われ、術後問題なく現在も経過している。 このiPS 細胞やRPE 細胞の多項目の品質管理試験および動物を用いた安全性試験を定期的に施行し、患者移植に向けた準備が現在も行われている。本年度には自家移植に加えて、iPSバンクを利用した他家移植で加齢黄斑変性患者への移植を行う予定である。 RPE 他家移植の場合は拒絶反応が問題となるが、我々はそのiPS-RPE 細胞移植のin vivo 動物拒絶反応モデルおよびin vitro ヒト拒絶反応モデルを作製した。 iPSバンクは京大のiPS 研究所が構築したHLA ホモ接合体ドナー由来のiPS 細胞バンクで、我々はこのHLA ホモiPS 細胞から樹立したRPE 細胞をHLA が合う患者(HLA ハプロアイデンティカル)に移植する予定である。 本講演ではiPS 細胞由来RPE 細胞について、移植手術方法、1 例目の自家移植の術後経過、また、他家移植を想定したその取り組みについて紹介する。 術後の拒絶反応の有無を診断するために、血清を用いたRPE 拒絶反応特異抗体の同定、また、末梢血細胞を用いたRPE 拒絶反応細胞増殖試験結果も報告する。

2017年7月 第54回日本眼炎症学会

カニクイザルの自己免疫性ぶどう膜炎モデル作製の試み

1.目的

カニクイザルは眼の構造(網膜、黄斑部、血管構造など)や眼球サイズがヒト と同じで実験動物としてよく用いられている。今回我々は、サルを用いて自己 免疫性ぶどう膜炎 (EAU) モデル作製を試みた。

2.対象と方法

正常カニクイザルにヒト網膜抗原IRBP ペプチドをアジュバンドとともに注射 しEAU 免疫を施行した (n=3)。免疫後1 週〜10 週の間1 週毎に眼底検査、FA、 OCT での観察を行い、また眼球を摘出し病理切片を作製した。陰性対照 (n=1) にペプチドを含まないDMSO をアジュバンドと免疫、また、陽性対照 (n=1) に ウシwhole IRBP 抗原をアジュバンドと免疫して評価した。

3.結果

IRBP ペプチドでEAU 免疫したサルでは、1-3W 目では明らかな眼内炎症の所見 はなかったが、4-5W 目あたりからOCT で網膜内層を中心に浸潤像が見られて いた。6-7W 目前後には網膜内炎症と硝子体細胞浸潤の所見が見られ、炎症の強 い個体では漿液性網膜剥離が見られていた。病理切片では炎症細胞浸潤の激し い肉芽腫性の網膜内および脈絡膜内炎症所見が見られていた。また、陰性対照 では経過中炎症はなく、陽性対照では上記同様の網膜炎症所見が見られていた。

4.結論

カニクイザルにIRBP 網膜抗原を免疫したところ網膜炎症所見が見られた。マウ スなどの小動物と異なり眼内炎症病態がヒトと同じの可能性があり、このモデ ルは眼内炎症性疾患の治療法開発等に利用できると思われた。

2017年4月 第121回日本眼科学会総会

iPS 細胞由来網膜色素上皮移植モデルを用いた拒絶特異抗体の同定

1.目的

人工多能性幹細胞 (iPS 細胞) は、多種類の細胞・組織に分化する事が 可能な細胞で、現在、iPS 由来網膜色素上皮細胞 (RPE) 移植の臨床試験が始ま っている。RPE 他家移植の場合は拒絶反応が問題となるが、今回、そのiPS-RPE 移植のin vivo 動物モデルを用いた拒絶時のRPE 特異抗体の同定を試みた。

2.対象と方法

カニクイザルiPS 細胞は、MHC ホモ接合体iPS 細胞株1121A1 またはヘテロ接合体46a を用いて、RPE 細胞へと分化誘導して移植に使用した。 これらをMHC 一致と不一致移植で別のサル網膜下へ移植した (他家移植)。術 前後に血清を採取して、移植RPE 細胞に50 倍希釈した血清を添加して、血清 中のRPE 特異抗体(RPE-sepsific antibody: RSA)の同定を免疫染色法で次の ように検討した。血清添加後のiPS-RPE 細胞をDAPI(核染色)と一緒にAlexa Fluor 488 標識 anti-human IgG で染色して、そのRPE 細胞を蛍光顕微鏡で観察 した。

3.結果

MHC 不一致のiPS-RPE 移植では術後に拒絶反応が見られ、その血清 中にはRSA が同定できた (血清による移植RPE 細胞に対するIgG 抗体の同定)。 その血清中のRSA が検出される時期と網膜内の拒絶反応が見られる時期はほぼ 同時期であった。一方、MHC 一致のiPS-RPE 移植では術後の拒絶反応がなく、 正常サル血清同様に血清中RSA は見られなかった。

4.結論

拒絶反応時に免疫系の細胞、特にB 細胞は移植RPE 細胞を認識し拒絶 に関与する抗体を産生している可能性が示された。これらの結果より、実際の ヒト臨床試験でも拒絶特異抗体の同定が術後拒絶の判定に使用できる可能性が 示唆された。

2017年3月 第21回眼科分子生物学研究会

ヒトiPS 細胞由来神経堤細胞の免疫学的特性

1.目的

ヒト角膜内皮細胞は視機能を守るために炎症反応を抑制する性質を持つ。発生学的に角膜内皮細胞が神 経堤由来であることも知られているが、神経堤細胞の免疫学的特性については報告がない。そこで、我々 はヒトiPS 細胞から神経堤細胞を分化誘導し、その免疫学的特性について検討した。

2.対象と方法

フィーダーフリー培養下のヒトiPS 細胞 (253G1 ライン) から以下のように神経堤細胞を誘導した。胚 葉体として1 週間の浮遊培養を行い、その後2 週間の接着培養を行った。誘導完了時に、フローサイト メトリー (FCM) と定量PCR で神経堤関連マーカー (CD271, CD49d, SNAI2, SOX10, TFAP2α) の発 現を調べた。神経堤細胞の免疫原性を調べるために、FCM でHLA classⅠ, HLA classⅡ, costimulatory molecules (CD80, CD86) の発現を調べた。また、T 細胞増殖抑制試験は、12 well plate にiPS 細胞と 神経堤細胞がコンフルエントになるまで培養し、健常人から末梢血を採取し末梢血単核球 (PBMC) を分 離して行った。複数の健常者から得られたPBMC をIL-2 入り培地下にて混合させリンパ球混合反応 (MLR) を誘導した。MLR の単独培養およびiPS 細胞または神経堤細胞との共培養を行った。72 時間後 にMLR-PBMC を回収し、Ki67 細胞内染色を行い、FCM でその抑制能について解析した。

3.結果

本方法で分化誘導した神経堤細胞は、既報と同程度に神経堤関連マーカーを発現していた。また、iPS 細胞と比較してHLA classⅠの発現が弱く、HLA classⅡとCD80, CD86 の発現はなかった。T 細胞増 殖抑制試験では、MLR にて増殖したCD4 およびCD8 陽性T 細胞をiPS 細胞は抑制が見られなかった が、iPS 細胞由来神経堤細胞は抑制していた。

4.結論

神経堤細胞は、免疫原性が低く、T 細胞を抑制する性質があることが確認された。角膜内皮細胞は発生 過程における神経堤細胞の段階で既に免疫抑制能を獲得している可能性が示唆された。

2016年12月 第9回 網膜シンポジウムRRM

末期変性網膜(rd1)へのiPSC-retina移植後の機能検証

我々は以前、末期変性網膜モデル(rd1)にiPS由来網膜組織を移植し、移植組織が視細胞層の構造を形成し、成熟して生着し、ホスト双極細胞とシナプス形成を示唆する免疫組織染色を示した(Assawachananont et al Stem Cell Reports,2014)。 今回、1)ホストの双極細胞がラベルされたrd1マウス及びシナプス末端を遺伝的にラベリングした移植片を用いて、ホスト・グラフトの直接的なコンタクトを可視化し、 2)光シグナルに伴うショックを回避するか行動試験による評価、3)多電極アレイシステムを用いてのex vivo micro ERG及びRGC応答を記録、移植後網膜の光反応を検証すると共に、 3次元構築した組織像と照合した。移植後視細胞は光に反応し、そのシグナルをホスト網膜に伝えていることが強く示唆された。

2016年7月 フォーサム2016東京

iPS 細胞で眼炎症性疾患が治せるか?••••••賛成

ぶどう膜炎の疾患特異的iPS 研究

iPS 細胞は、多種類の細胞・組織に分化する事が可能な人工的な多能性幹細胞 で、現在様々な基礎研究および臨床試験が取り組まれ始めている。我々の研究 所では、ヒトiPS 細胞由来の網膜色素上皮細胞の分化・誘導に成功し、関連病 院にて2014 年に加齢性黄斑変性患者にiPS細胞由来網膜細胞シートが世界で初 めて移植された。このiPS 細胞を用いた臨床応用の代表的なものは上記したよ うな細胞移植になるが、それ以外に試験管内 (in vitro) での病態解明や治療法ス クリーニング(創薬)なども挙げられる。眼科分野ではこれらの疾患特異的iPS 研究が網膜変性疾患、角膜疾患では進められているが、ぶどう膜炎を含めた眼 炎症性疾患ではほとんど行われていないのが現状である。それは病態のin vitro での再現が変性疾患に比べて難しいという側面がある。我々の研究所では、そ のぶどう膜炎の疾患特異的iPS 研究を開始した。対象疾患は、日本の三大内因 性ぶどう膜炎のベーチェット病、原田病、サルコイドーシスである。今回、ベ ーチェット病の疾患特異的iPS の研究計画を一部の結果とともに報告する。 本講演ではぶどう膜炎の疾患特異的iPS 研究をどのようなストラテジーで行 えば眼炎症性疾患が治せる様になるのか、その試みを皆さんに提案しdiscussion したい。

2016年4月 第120回日本眼科学会

網膜色素上皮iPS 細胞移植の現状

1.目的

iPS 細胞は、多くの細胞・組織に分化する事が可能な人工的な多能性幹細胞で、 現在様々な基礎研究および臨床試験が取り組まれている。我々の研究所では、 ヒトiPS 細胞由来の網膜色素上皮細胞 (retinal pigment epithelial cells: RPE) の 分化・誘導に成功し、関連病院にて2014 年9 月に滲出型加齢性黄斑変性患者に iPS 細胞由来のRPE シートが世界で初めて移植された(自家移植)。現在、この iPS 細胞やRPE 細胞の品質規格試験および安全性試験が行われ、特に問題はな く、次の加齢性黄斑変性患者移植に向けた準備が行われている。また、近い将 来には加齢性黄斑変性患者だけではなく網膜色素変性症などの他の網膜変性疾 患にも自家移植または他家移植手術を行う構想がある。また、過去の報告から、 RPE を用いた他家移植の場合拒絶反応が起こる可能性があり、他家移植ならば それなりの対策が必要である。現在、我々は、iPS バンクからHLA ホモ(HLA homozygote)のRPE 細胞を樹立してそれらが炎症拒絶反応を起こすかどうか in vivo(カニクイザルを用いた移植モデル)およびin vitro(ヒト末梢血を用い た試験管内での移植モデル)にて検討中である。 本講演では臨床試験で行ったiPS 細胞由来RPE 細胞の自家移植後の結果、ま た、将来の他家移植を想定したその取り組みについて報告する。

眼局所検体を用いた眼感染症網羅的PCR strip 検査の検証

1.目的

我々は以前、感染症に対する新しいPCR 検査「眼感染症網羅的PCRstrip 検査」を開発し、報告した(第69 回臨床眼科学会)。 今回、その検査方法の改良を行い、追加の検証を行った。

2.対象と方法

既存の眼局所検体 (n=20) を用いて以下の24項目をPCRにて検査した:HSV1, HSV2, VZV, EBV, CMV, HHV6, HHV7, HHV8, HTLV-1, ADV, トキソプラズマ,トキソカラ,アスペルギルス (ASP), アカントアメーバ, 結核, 梅毒, クラミジア, アクネ菌, カンジダ3種(アルビカンス、クルセイ、グラブラー タ), フザリウム, 真菌全般28S, 細菌全般16S。プレートタイプのPCR機械を用いて各項目のプライマーと蛍光プローブを安定化剤と共に12連stripのwellに固相化したものでPCRを行った。また、定量PCRを同時に行いその感度の違いを検討した。

3.結果

HSV1, HSV2, VZV, EBV, CMV, HHV6, HHV7, HTLV-1,トキソプラズマ,ASP, アメーバ, クラミジア, Cグラブラータ, Cアルビカンス, ADVの15項目は陽性検体のみ検出し、定量PCRと同様の結果だった。また、HHV8,トキソカラ, 結核, 梅毒, Cクルセイ, フザリウムは今回の検体では陰性であった。なお、偽陽性 の可能性が考えられたのはアクネ菌, 細菌16S, 真菌28Sの3項目であった。ただ、これらのCp値(獲得したサイクル数)を見るといずれも>35以上と高値で、陽性・陰性のCut-off値を35前後に設定するなど工夫が必要と思われた。

4.結論

この新しいPCR検査は20項目以上の外来性抗原ゲノムを同時に迅速に高い感度で検出できた。今後は多施設共同研究でさらなる検証を行う予定である。

実験的自己免疫ぶどう膜炎における網膜マイクログリアのシクロオキシゲナーゼ-1 発現の解析

1.目的

シクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)は中枢神経ではマイクログリアで発現しており、COX-1 を標的としたPET のプローブで脳の炎症を検出できると の報告がある。今回我々は網膜疾患においてCOX-1 が分子イメージングの標的となりうるか検証するため、実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAU)マウスの網膜マイクログリアとそのCOX-1 の発現を免疫組織化学的に解析した。

2.対象と方法

C57BL/6 マウスにヒトIRBP ペプチドをアジュバンドとともに注射し、EAU を導入した。正常マウスを対照として、免疫1、4、7、14、21 日後に眼底検査とOCT での観察を行い、眼球を摘出した。摘出した眼球を抗Iba1 抗体、抗COX-1 抗体、抗CD68 抗体で免疫組織染色し観察した。

3.結果

H正常およびEAU マウスの網膜のマイクログリアでCOX-1 の免疫染色が陽性であった。EAU の眼炎症は免疫14 日後には眼底検査、OCT で観察できたが、Iba1 とCOX-1 の免疫組織染色でもマイクログリアの増殖と形態変化を確認できた。

4.結論

EAUマウスでは臨床所見の出現とともに網膜のマイクログリアの増加や形態変化が認められ、COX-1 の免疫組織染色に反映されていた。網膜の病態においてもCOX-1 がマイクログリアを対象とした分子イメージングの標的分子となりうることが示唆された。

2016年3月 第15回日本再生医療学会総会

網膜再生移植時の拒絶反応

人工多能性幹細胞 (iPS 細胞) は、多種類の細胞・組織に分化する事が可能な 細胞として注目され、現在様々な基礎研究および臨床試験が取り組まれている。 我々の研究所では、ヒトiPS 細胞から網膜色素上皮細胞 (retinal pigmentepithelial cells: RPE) への分化・誘導に成功し、加齢性黄斑変性患者にこの細胞 シートを移植した。このRPE 細胞の品質規格試験および動物を用いた安全性試験では特に問題なく、また現在、iPS バンクを利用した他家移植治療に向けた準備が行われている。 その試みとして、まず我々は、カニクイザルMHC homozygote のiPS-RPEラインを分化誘導し、in vivo 他家移植モデル(iPS-RPE を網膜下へ移植)を作 製した。このサルiPS-RPE はMHC-I の構成的な発現、また、炎症下(IFN-γ存在下)でのMHC-II の発現が見られていた。これらを用いた移植の結果では、 MHC 不一致のサルでは、蛍光眼底撮影での網膜血管からの色素のリーク、網膜断層所見での黄斑浮腫、網膜剥離、網膜の非薄化など拒絶を示唆する所見が見られ、移植したRPE グラフトは生着していなかった。 一方、MHC が一致するサルへの移植では、炎症の所見はなく網膜はintact で移植したRPE 細胞は生着していた。 また、網膜病理所見では、MHC 不一致の拒絶眼では、Iba1 陽性細胞(マイクログリア)、MHC-II 陽性細胞(活性化炎症細胞やAPC)、CD3 陽性細胞(T 細胞)の浸潤が見られていた。 一方、MHC 一致眼では、これらの細胞浸潤が軽度で正常眼に近い所見だった。 このように、本講演では他家移植に向けたin vivo およびin vitro のRPE 拒絶反応評価試験の解析結果を中心に報告する。

2011年5月 第115回日本眼科学会総会

ES/iPS細胞由来網膜色素上皮細胞シートの作製

1.目的

高齢者の主要な失明原因のひとつである 加齢黄斑変性 かれいおうはんへんせい は、加齢変化による網膜色素上皮細胞(RPE)の機能低下を一因とする疾患で、RPE移植により機能維持や回復が期待される。 我々 われわれ はすでにヒトiPS細胞からRPEへの文化誘導に成功しており、今後RPE移植を臨床 応用するにあたり、移植片を主体のRPEに近づけるためRPEシートの作製を試みた。

2.対象と方法

Transwell™のinsert内にコラーゲンゲルを作製し、iPS細胞由来RPEをゲル上に播いた。コンフルエント後、ERISA法により血管内皮増殖因子(VEGF) や色素上皮由来因子(PEDF)を測定した。その後コラーゲンゲルにコラゲナーゼを添加し、RPEをinsertから切り離し、これを免疫染色にてRPEマーカーの発現 を検討した。

3.結果

培養開始後、約4週間でRPEはコンフルエントとなった。この時VEGFは基底側、PEDFは上皮側に優位に分泌し、極性を持つことを示した。コラゲナーゼ添加後、RPEをinsertから切り離すとシート状のRPEが得られた。このRPEシートは単層上皮の形態をとり、密着結合の構成蛋白 であるZO-1と基底膜の構成蛋白である lamininやCollagen-4を発現していたことから、形態・機能的に成熟したRPEシートが作製できたと考えた。

4.結論

形態・機能的に成熟したRPEシートの作製に成功した。今後作製したiPS-RPEシートを用い自家・他家移植を行い、拒絶反応の有無や 機能を評価する予定である。

圧力駆動バルーンアクチュエータを用いた細胞シート移植操作の検討

1.目的

細胞シートを網膜下へ移植するための手術器具、手技の開発。

2.対象と方法

ヒトiPS細胞から文化誘導されたRPE細胞のコロニーを分離、再培養して作製した細胞シートを準備し、レーザーマイクロダイセクション (LMD)を用いて任意の大きさに切り出すことを試みた。網膜下移植用器具として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)膜を成型して作製した、 四角形の先端部を円筒形に折り畳むことが可能な圧力駆動バルーンアクチュエータを用いて、器具先端部への細胞シートの搭載およびシートの 折り畳み、液体中への挿入および目標部位へのシート貼り付けといった一連の動作について検討した。

3.結果

細胞シートはLMDを用いることにより任意の大きさ、形に成形することが可能であった。PDMS表面部分的に親水性に処理することにより器具先端 へのシート搭載は容易になり、搭載したシートは折り畳みおよび伸展が可能であった。器具先端から液体を噴出させる流路を付加することで、 細胞シートの貼り付け動作も可能であった。

4.結論

網膜下への細胞シート移植は極性を持った大きな細胞シートを狭い眼内へ安全、確実に移植する技術が不可欠であり、バルーンアクチュエータ を用いた移植技術は有望な方法と考えられるが、今後さらに眼内、網膜下での操作に適応するべく器具および手技の改良を行い、安全性、確実性を確立する必要がある。

2011年3月 第10回日本再生医療学会総会

【シンポジウム】網膜色素上皮細胞移植に向けた取り組み

網膜最外層に存在する網膜色素上皮は、暗箱の役割をして鮮明な視覚の獲得に貢献するとともに、神経網膜層を血管の豊富な脈絡膜と隔てるバリアとして働き、また光を受容する視細胞の生存や機能維持を助けるといった、視機能の維持に必須な役割を担っている。 加齢黄斑変性 かれいおうはんへんせい は中途失明原因において 上位に位置する疾患であり、網 膜色素上皮が障害を受け変性することにより生ずることが知られて いるが、変性した網膜色素上皮を再生することができれば、本疾患 における病状の改善や進行抑制が期待できる。 我々 われわれ はこれまでにマ ウスやサル、ヒトのES/iPS細胞より網膜色素上皮細胞を分化に成功した実績を持っており、さらにこのようにして得られた網膜色素上皮細胞を移植し障害部位を置換・再生することにより、上で述べた網膜疾患の治療を目指した研究開発を行っている。

本講演では、1.安定した細胞培養法の開発、2.移植する細胞の有効性、3.効果的な移植法の開発、4.細胞培養に用いる試薬類の安全性、5.移植する細胞の安全性、といった観点から検討した細胞移植プロトコール開発を中心に、臨 床試験に向けた 我々 われわれ の取り組みについて紹介したい。

ES/iPS細胞由来網膜色素上皮細胞シートの網膜下移植手技の開発

1.目的

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい や加齢黄班変性のような網膜の変性をきたす疾患において、変性、萎縮に陥った網膜色素上皮(RPE)の再生は有力な治療となりうると期待される 我々 われわれ は、ES/iPS細胞由来のRPE細胞の移植の臨床応用を目標としているが、健常なRPEのバリア機能の回復と、感覚網膜の保護という治療の目的に対してはRPEの 細胞シートを網膜下の障害部位に移植するのが最も理想的と考えられる。今回、ES/iPS細胞由来RPE細胞シートを網膜下へ移植するためのデバイスを試作し、移植実験を試みた。

2.方法と結果

ヒトiPS細胞から文化誘導されたRPE細胞のコロニーを分離、再培養して細胞シートを作成した。細胞シートを3×3mm大に切り出し、シート移植のため、圧力駆動バルーンアクチュエータを用いて細胞シートの搭載、リリースが可能かどうかをディッシュ上で試みたところ、細胞シートの搭載は可能であったが、リリース動作は完全にはできない場合があることが判明した。

3.結論

網膜下への細胞シート移植は極性を持った大きな細胞シートを狭い眼内へ安全、確実に移植する技術が不可欠であり、バルーンアクチュエーターを用いた 移植技術は有望な方法と考えられるが、今後さらにデバイスの改良を行っていく必要がある。

マウス変性モデルでの視細胞移植

1.目的

網膜変性モデルマウスの視細胞移植において、シナプス形成/移植細胞の分化促進、炎症の抑制などの観点より、生着率を向上させる添加因子/処置について検討した。

2.方法

rd1マウスの網膜下に生後3日から7日令のnrl-GFPマウスの網膜細胞を移植した。移植時の細胞懸濁液にvalproic acid(VPA:10μM-10mM)を添加,及びglatiramer acetate(300μg/匹 )をComplete Freund’s adjuvantと共に移植1週間前に皮下接種し、2週間後の生着率の違いを検討した。

3.結果

移植時の1mMのVPA添加で、生着細胞数は最大であり、以下1mM VPAの添加により実験を行った。 変性急性期終了後早期の生後4週令から6週令において、VPAにより細胞生着数は有意に増加し、4、5週令では約2倍の細胞生着が得られた。また移植後の炎症反応を1)マイクログリア(MG)++、移植細胞 +  2) MG + 移植細胞 +,3)MG + , 移植細胞+の3群にわけて評価すると、glatiramer acetatete投与群では3)郡が移植眼の半数を超えたのに対し、非投与群では15%以下にとどまった。

4.考察

変性網膜の視細胞移植において、VPA添加及びgfatiramer acetateなどによる炎症抑制が有効であった。

ES/iPS細胞由来網膜色素上皮細胞の移植方法の検討

1.目的

高齢者の失明原因の一つである 加齢黄斑変性 かれいおうはんへんせい は加齢変化による網膜色素上皮細胞(RPE)の機能低下を一因とする疾患で、RPE移植により機能維持や回復が期待される。 我々 われわれ は前臨床試験としてサルのES/iPS細胞を作製し、RPEへの分化誘導に成功している。今後臨床応用にあたりRPE移植の手術手技を検討するため、 ES/iPS-RPEを懸濁液及びシートで移植し、それぞれの可否、利点欠点などを検討した。

2.方法

雄のカニクイザルに、懸濁液とシートの状態のES/iPS-RPEを移植した。懸濁液移植は人工的網膜剥離作製後、網膜下にGFPラベルしたRPEを5×104cell/50μl注入した。 シート移植は1mmx2mmの移植シートを作成し、硝子体切除後、人工的網膜剥離を作製し、網膜下への挿入を試みた。

3.結果

懸濁液移植は、安定かつ安全に行うことができたが、術後作製した網膜剥離の下縁に移動した。シート移植は、ほぼ目的部位に潤滑に挿入する事が可能であり、術後位置も挿入位置に安定した。現法ではシートの挿入速度のコントロールがやや難しく、 シートが反転する可能性があり、挿入器具についてはさらなる検討が必要である。両者とも術中、術後に合併症は認めなかった。

4.結論

シート移植は術中の操作によりある程度移植部位をコントロールすることができ、臨床応用に適していると思われた。今後より正確、安全な挿入のため、より的確な挿入器具の開発が望まれる。

2010年4月 第64回日本眼科学会

マウス変性網膜への視細胞移植の条件検討

1.目的

マウス変性網膜(C3H/HeJ:rd 1)の変性進行過程上における適切な移植時期の選択、及び生着に寄与する因子を検討した。

2.方法

rd マウスの変性進行過程を,GFAP (glial fibrillary acidic protein), Iba1 (microglia), PKC (protein kinase C:rod bipolar cell), ZO-1 (outer limiting membrane) を指標に免疫組織学的に調べた。その上で、4-8 週令のマウスに生後3-7 日令のNRL-GFP 網膜細胞を移植し、1.gliosis 阻害剤(ChABC, rho kinase inhibitor:H-1152P)2. 細胞浸潤促進剤(17- beta estradiol:E2、cobalt)3. 分化促進因子(valprolic acid :VPA), 4. 再生環境促進因子(wnt 3 a)を添加、2週間後に移植細胞の生着を検討した。

3.結果

GFAP 発現、microglia はrod 変性進行期に増強、その後一旦沈静化し、10週以降は再度GFAP の増強、PKC 陽性細胞減少傾向がみられた。rod 変性後4週令から8週令までほぼ同じ効率で細胞生着がみられた。以下、無添加コントロール群(平均細胞数25 / section) に比べ、ChABC は6週令で2倍、8週令で1.8 倍、VPA は4週令、6週令で2倍及び2.4 倍に生着率を向上させた。

4.結論

rod 消失後の変性網膜においても移植視細胞が生着する可能性が示された。分化促進因子やグリオーシス融解因子が生着率を向上させると思われた。

変異持つ 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい 症患者の iPS 細胞作製及び視細胞への分化誘導

1.目的

桿体視細胞 かんたいしさいぼう (RP)は 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい の変性による遺伝性網膜疾患である。変異による視細胞変性のメカニズム(例えばRP1とRP9)は十分解明されていないため、治療になる薬が未だ現れていない。今回、 我々 われわれ はこれまでに遺伝子診断で変異を同定したRP患者のiPS細胞の作製及び視細胞への分化を試みた。

2.方法

RP1遺伝子とRP9遺伝子変異を持つRP患者三人の皮膚線維芽細胞を培養し、レトロウイルス感染によるリプログラミングファクター(OCT3/4 、KLF4 、c-MYCとSOX2)の遺伝子導入を行ってiPS細胞ラインを作製した。未分化マーカーであるNanog、Oct3/4やTra-1-60などの発現を免疫染色した。iPS 細胞の奇形腫形成はSCIDマウスを用いて確認した。更に、 SFEB 法を用いて視細胞へ分化させ、RT-PCRや免疫染色法にて網膜前駆細胞、視細胞precursorと錐体、桿体視細胞のマーカーを調べた。

3.結果

培養線維芽細胞にウイルス感染した3週間後にiPS様コロニーが現れた。患者由来のiPS細胞は未分化マーカーが陽性であった。三胚葉由来組織を構成する奇形腫も確認された。In vitro 分化によって神経網膜前駆細胞(Pax6+Rx+)、色素上皮前駆細胞(Pax6+Mitf+)、視細胞precursor(Crx+)と錐体(Opsin+)、桿体(Rhodopsin+)視細胞も確認された。

4.結論

RP患者におけるES細胞様のiPS細胞を作製した。これらのiPS細胞から分化誘導によって網膜視細胞の作製に成功した。

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい における脈絡膜厚の評価

1.目的

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい (RP)での黄斑部脈絡膜厚を測定し、病態との関連を検討すること。

2.対象

スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)にて解析可能な画像の得られた定型的RPで他疾患の合併のない50例50眼。

3.方法

中心窩下及び、中心窩より上下鼻耳側1.5mmと3mmの位置での脈絡膜厚、視細胞層厚を測定した。

4.結果

対象の平均年齢は48.6歳、等価球面度数の平均は-1.8Dであった。中心窩下での脈絡膜厚は228±74μm、3mmにおける厚さはそれぞれ鼻側104±51μm、 耳側197±66μm、上側220±64μm、下側174±61μmであった。上側以外の3方向において脈絡膜厚は中心窩より有意に薄かった。 中心窩視細胞層厚と脈絡膜厚の間に相関を認めなかったが、上下鼻耳側の視細胞層厚の平均と中心窩脈絡膜厚は有意に相関した(r=0.37、P<0.01)。

5.結論

RPにおいて脈絡膜厚は、Ikunoらの報告(2009, IOVS)における正常眼の中心窩下脈絡膜厚(354μm)と比べ明らかに薄く、 中心窩から周辺に離れるにつれさらに薄くなる傾向があった。RP眼では正常眼に比較して下側の脈絡膜厚が強く減少していた。RP眼においては、視細胞の変性によって、 脈絡膜の循環血流量が減少することや、網膜色素上皮の変性により脈絡膜毛細血管板が委縮することで、脈絡膜が薄くなっていると考えられた。

網膜色素上皮の萎縮が網膜の変性に先行した 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい 4症例

1.緒言

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい (retinitis pigmentosa:RP)は遺伝子変異による視細胞・網膜色素上皮(RPE)の変性により視野狭窄をきたす疾患であり、多くの原因遺伝子が同定されているが、視細胞・RPEの変性過程については十分には解明されておらず、その多くは視細胞の変性が先行すると考えられている。今回、スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)を用いて変性パターンを調べたRP症例の中で、網膜の変性に先行してRPEの障害が進行していると考えられた4症例を報告する。

2.症例

当院で経過観察中のRP4例8眼。SD-OCT(Spectralis HRA+OCT®)を用いて、中心窩を含む水平・垂直断面でRPE、視細胞層(ONL)を評価したところ、いずれもONLが比較的残存している領域にRPEの萎縮を認めた。また検眼鏡では、OCT上でのRPE変性範囲に一致した領域で色素沈着・脱失が認められた。うち2症例では、比較的正常な色調の黄斑内において境界明瞭な輪状色素脱失帯を傍中心窩に認め、OCT上もその帯に一致してRPEの萎縮が見られ、その周囲ではRPEは保たれていた。

3.考察

4症例では、検眼鏡で網脈絡膜萎縮病変を認める部位において、RPEが萎縮していてもONLが残存しており、RPEの障害が先行した可能性が示唆された。

サルiPS細胞の作製と網膜色素上皮細胞への分化誘導

1.目的

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい 加齢黄斑変性 かれいおうはんへんせい などの1次的もしくは2次的に網膜色素上皮(RPE)細胞が障害される疾患に対し、RPEの移植は機能維持や回復への1つの手段と考えられる。 我々 われわれ はすでにヒトiPS細胞からRPEへの分化誘導に成功しているが、臨床応用に向けて自己iPS細胞由来の分化細胞について拒絶反応の有無を検証する必要がある。そのため 我々 われわれ は、大型動物モデルであるサルのiPS細胞を作製し、RPEへの分化誘導を試みた。

2.方法

カニクイザルの皮膚を採取しレトロウィルスを用いて4遺伝子を導入して作製したiPS細胞を、Wnt及びNodalシグナル阻害剤存在下の無血清培地中で1週間浮遊培養した後、接着培養を行いRPEのマーカーの発現を免疫染色にて検討した。

3.結果

分化開始後、約3週間程度でRPE前駆細胞のマーカーであるPax6/Mitf陽性の細胞を認め、その後に色素を有する多角形の敷石状構造からなる細胞が出現した。さらに接着培養を続け、分化開始後約3ヶ月後に成熟RPE細胞のマーカーであるRPE65陽性の細胞を認めた。また色素を有する細胞のコロニーを単離して再培養し、RPE単独での維持培養ができることも確認した。

4.結論

ヒトiPS細胞と同様の方法で、サルiPS細胞からもRPEが得られた。今後この細胞を自家移植することで、拒絶反応や移植細胞の生着・機能などの検討ができると考えられる。

2009年10月 第63回日本臨床眼科学会

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい のスペクトラルドメイン光干渉断層計画像における網膜内の顆粒状所見

1.目的

近年、スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)により、網膜内の詳細な観察が可能となった。 今回、 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい 患者のSD-OCT画像において網膜内顆粒層(INL)および外顆粒層(ONL)の異常所見と考えられる顆粒状所見について検討した。

2.方法

2009年1月から5月の間に神戸市立医療センター中央市民病院の眼科外来を受診した初診または経過観察中の 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい 患者60例120眼(14から80歳、平均49.9±15.9歳)の両眼のSD-OCT(Spectralis HRA/OCT, Heiderberg Engineering社)画像所見を、 視細胞内節外節境界(IS/OS)の有無、INLおよびONLの顆粒状所見の有無について検討した。

3.結果

60例全例でIS/OSの有無、顆粒状所見の有無については左右眼でほぼ同様であった。60例中IS/OSの存在したのは35例で、その内顆粒状所見が観察されたものはINLのみが10例、ONLのみが4例、INL、ONL両方が14例であった。INLの顆粒状所見はIS/OSの残存する領域の内側に、ONLの顆粒状所見はIS/OSの残存する領域の周辺側に多くみられた。IS/OSの存在しなかった25例でも、部分的に島状の外節様の構造が残存しているような像が見られ、顆粒状所見が観察されたものはINL、ONL 両方が9例、ONLのみが16例であった。

4.結論

SD-OCTによる網膜内の画像の検討で、 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい 患者のINL、ONLにみられる顆粒状所見は、 網膜色素変性 もうまくしきそへんせい の進行にともなう各層内の構造の変化が描出されている可能性があり、変性の進行様式を示唆するとも考えられる。

移植時ホスト網膜の環境の検討―成体網膜と新生児網膜

1.目的

網膜移植において移植細胞の生体網膜への生着はまだ十分な成果が得られていない。手掛りとしてホストの日令による移植細胞の生着の違い、ホスト環境の違いについて検討した。

2.方法

生後3日から7日令のEGFP発現マウス網膜を、生後7から8日令及び6から8週令網膜の組織培養、または同日令生体網膜下に移植し、生着及びホスト網膜の反応を比較した。

3.結果

組織培養において生体網膜では細胞内への移植細胞侵入は稀であった。P8網膜の組織培養では移植細胞が定位置に生着する像がみられた。生体移植においても、生体網膜では細胞侵入増はまれで、しばしば網膜下グリオーシスに阻まれ、移植細胞がマイクログリア、色素上皮に処理される像がみられた。P7網膜では移植2週後に外節をこえて移 植視細胞が生着する像がみられ, グリオーシス反応も穏やかであった。 組織培養網膜ではP8網膜ではGFAP,nestin の増強はあまりみられなかったが、成体網膜ではGFAP は3日目、nestin は1日後をピークとする増強がみられた。成体移植において、エストロゲンやコンドロイチ ナーゼの同時投与は移植細胞の生存には有効であったがグリオーシス予防には十分な効果は得られなかった。

4.結論

移植細胞の生着にGFAPまたはnestinといった因子の抑制が大切であると思われたが、移植細胞受け入れのホスト環境の整備については今後さらなる検討が必要である。

2009年9月 『視覚科学フォーラム』第13回研究会 @ アットマーク 鹿児島

多点電極アレイを用いた網膜変性モデルでの視機能評価

1.目的

網膜の光に対する応答を調べるときには,網膜電図,Electroretinogram(ERG)が臨床的にも実験的にもよく用いられる。しかし、通常のERGでは網膜の全体の応答を取得するため、局所的な情報を得ることができない。本研究では、網膜の局所的な光応答を複数点同時計測するために、多点電極アレイ、Multi-electrode array (MEA) を用いた。また、この計測系を評価するためにいくつかの網膜変性モデルでの光応答を調べた。

2.方法

暗順応したラット/マウスの網膜を赤色光下で取り出し、1.2mm四方のMEAチップの上に硝子体側を下にしてアンカーで固定した。そして網膜にLEDの白色光を照射して各電極からの応答を調べた。
このとき光応答の性質を調べるためにいくつかの薬剤を用いた。

3.結果

網膜に光照射すると各電極からERGの“a-wave”、“b-wave”様の波形を取得することができた。“b-wave”様の波形はmGluR6のアゴニストであるAP4で抑えられたが、“a-wave”様の波形は抑えられなかった。“a-wave”様の波形は生後12日齢のマウスから取得され,生後15日齢でほぼ成体と同様の大きさの応答を示した。網膜変性モデルマウスである、C3H/HeJで(通常のERGでは光応答は確認されない)MEA測定系を用いると、生後13日齢でわずかに応答が計測され、その後減衰することがわかった。この結果は網膜組織に残存する視細胞の免疫抗体染色の結果ともよく一致している. またN-methyl-N-nitrosourea(MNU)を腹腔投与すると網膜視細胞が変性することが知られているが、MNUをラットに投与し、ERGで確認すると、MNU投与後3日目でかなり応答が減少し、7日目では全く応答を得られなかった。実際、網膜組織を免疫抗体染色で見ると、MNU投与後3日目でかなりの網膜視細胞層が減少し、7日目では網膜中心部ではほとんどなくなっていた。ただ、7日目でも網膜辺縁部で は視細胞層がまだ残存していた。そこで次にMEAで光応答を調べると、ERG計測と同様にMNU投与後3日目で応答は減少するが、7日目においてもわずかながら応答を計測することができた。また、網膜中心部と辺縁部とで同時に応答を取得すると辺縁部でより大きな応答が確認できた。

4.結論

これらの結果から、MEAによる測定系は局所的で微小な網膜組織の光応答を計測できることが分かった。この測定系は、細胞移植や遺伝子治療の効果を計測するために有用であると考えられる。

2009年4月 第113回日本眼科学会総会

ヒト人工多能性幹細胞由来網膜色素上皮細胞および視細胞の分化誘導

1.目的

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい などの網膜変性疾患に対し、細胞移植は機能回復への一つの手段と考えられる。細胞移植治療の開発に際して患者自身から細胞が安全かつ十分に得られれば移植細胞の供給源として理想的である。今回 我々 われわれ はすでにヒトES細胞から網膜色素上皮細胞および視細胞への分化誘導で確立した方法を適用してヒトiPS細胞から分化誘導を試みた結果を報告する。

2.対象と方法

未分化ヒトiPS細胞を無血清培地中で浮遊細胞塊を形成させ培養した後、接着培養を行い網膜前駆細胞のマーカー(Rx、Pax6)および視細胞のマーカーの発現を免疫細胞染色で検討した。

3.結果

WntおよびNodalシグナルの阻害薬の存在下に浮遊細胞塊を形成させ20日間培養した後、接着培養を行うと分化開始後約40日目に網膜前駆細胞のマーカーであるRx/Pax6陽性の細胞が一部に認められた。また40~60日目に色素を有する多角形の網膜色素上皮様の細胞が出現した。その後さらに接着培養を続け分化開始後90日目以降に培地に視細胞への分化誘導因子であるレチノイン酸とタウリンを加え、分化開始後約120日目には網膜視細胞のマーカーであるリカバリンとロドプシンの発現を認めた。

4.結論

ヒトES細胞から網膜細胞への分化誘導法を用いてヒトiPS細胞においても網膜色素上皮細胞および視細胞のマーカーを発現する細胞の出現を認めた。iPS細胞が網膜疾患への細胞移植治療の細胞供給源となる可能性が示唆された。

マウス変性網膜への視細胞移植

1.目的

マウス変性網膜の異なる変性時期に視細胞移植を行い、細胞の生着状態について慢性の変性モデル、急性変性モデルを用いて詳細に観察する。

2.対象と方法

1から4, 週令のC3H/HeJ(rd) マウス、及び6から8週令のBL6 マウスにMNU 投与した視細胞変性マウスの変性 早期及び終焉早期にそれぞれ生後3から7日令の網膜細胞の移植を行い、2週間後に固定、移植細胞の生着状態及びマイクログリア、GFAP、シナプスマーカー、双極細胞と移植細胞の関係などを免疫組織学的に観察した。

3.結果

健常網膜への移植においては効率よい移植細胞の生着がみられ、移植細胞へのマイクログリアの集積増強やGFAP染色性の増強は みられなかった。rdマウスへの移植では2週令以降の移植では本来の外網状層に突起伸展して生着する移植視細胞は殆どなかったが、異所性に双極細胞と接する移植細胞像が観察された。また、変性極期を過ぎると外層でのマイクログリアは消退し、移植細胞への強い集積はみられなかった。移植細胞はホスト網膜内への生着の有無にかかわらず、外節形成様変化やリボンシナプスマーカー陽性となるものがみられた。BL/6 のMNU変性モデルにおいては、変性早期の移植において、網膜外層内への移植細胞の生着とシナプス層への突起伸展像、外節形成像が確認できた。

4.結論

移植視細胞は成熟傾向にあり、変性早期であれば外層に生着する可能性が示唆された。

2009年3月 第8回日本再生医療学会総会

マウス網膜への視細胞移植の条件検討

1.目的

マウス視細胞移植におけるよりよい生着条件を検討する。

2.方法

生後4から7日令のマウス網膜細胞を6から8週令の健常マウス網膜下に移植し、よりよい生着を得るための移植手技を検討した。またその手技を用いて、1,2,3,4,週令のrdマウス及び6から8週令のMNU投与による視細胞変性マウスに移植を行い、移植2週間後に細胞の生着状態を観察した。

3.結果

移植細胞を穏やかに解離、移植前の眼内圧の減少など移植手技の改善により、効率よく視細胞が健常成体網膜に生着するプロトコールを確率した。移植細胞生着時に移植細胞へのマイクログリアの集積増強やGFAP染色性の増強はみられなかった。BL/6移植細胞をMRL,BALB/Cなど異系ホスト網膜に移植したものでは、 BL/6同系移植に比べ移植細胞の生着効率は極端に悪かった。rdマウスの移植(異系移植)では本来の外網状層に突起進展して生着する細胞はほとんどなかったが、網膜外層に移動してきたbipolar細胞と接する移植細胞像が観察された。BL/6同系のMNU変性モデルにおいては、薬剤投与2日後の移植において、変性過程の進行過程においても網膜外層への移植細胞の生着が確認できた。

4.結論

生後4から7日令のBL/6網膜視細胞が、BL/6健常網膜及びMNU変性網膜で外層に生着することが確認できた。

2008年4月 第112回日本眼科学会総会

遺伝形式不明な 網膜色素変性症 もうまくしきそへんせいしょう における遺伝子解析

1.目的

今まで 網膜色素変性症 もうまくしきそへんせいしょう (RP)に関する数多くの原因遺伝子が分かった。然し、半分以上を占める遺伝形式不明のRP患者に対する遺伝子診断や遺伝カウンセリングは ほぼできないのである。 我々 われわれ は新たな方法で遺伝形式不明のRP患者における遺伝原因究明のため 大規模の変異解析を行った。

2.方法

まずはすべての報告変異と変異領域をまとめた。141 遺伝形式不明な家系と52人弧発患者の血液サンプルからDNAを抽出し、其々に108個エキソン(30遺伝子)をdHPLC-Sequencing法でスクリーニングした。 すべてのnon-synonymous variantsに対してbioinformatic方法で解析した。

3.結果

28家系や弧発患者(14.07%)で18個新規変異を含むトータル26個変異を同定した。弧発患者二人と一家系に異なる二つ遺伝子での変異を見つけた。同定した23missense変異の内、21個はソフト解析の結果と一致だった。

4.結論

我々 われわれ は初めて遺伝形式不明なRPにおける臨床応用できる方法を立った。日本人RP、特に弧発例について変異のスペクトルを分かった。また、新たなdigenic変異を同定した。臨床遺伝子診断で出た多くMissense variantに対して、bioinformatic解析は変異予測に役立つである。

誘導多能性幹細胞からの網膜視細胞への分化誘導

1.目的

網膜色素変性 もうまくしきそへんせい などの網膜変性疾患に対し、細胞移植による視機能の再建は機能回復への一つの手段と考えられる。 細胞移植治療の開発に際して患者自身から細胞が安全かつ十分にえられれば移植細胞の供給源として 理想的である。2006年に繊維芽細胞への特定の遺伝子を導入することにより誘導され、胚性幹(Embryonic stem;ES)細胞に類似した特性を持つ誘導多能性幹(induced pluripotent stem ;iPS)細胞が報告された。今回 我々 われわれ はすでに ES細胞から網膜視細胞への分化誘導で確立した方法を適用してiPS細胞から網膜視細胞への分化誘導を試みた。

2.方法

iPS細胞を無血清倍地中で浮遊細胞塊を形成させ培養した後、接着培養を行い網膜前駆細胞のマーカー(Px、Pax6)および 桿体視細胞のマーカー(ロドプシン)の発現を免疫細胞染色で検討した。

3.結果

Wntシグナルの阻害薬およびNodalシグナルの阻害薬の存在下に浮遊培養の後、接着培養を行うと分化開始後15日前後でRx/Pax6陽性の細胞を認めた。その後さらにレチノイン酸、タウリン、N2を培地に添加して培養を継続すると分化開始後45日前後でロドプシン陽性の細胞を認めた。

4.結論

ES細胞から視細胞への分化誘導法を用いてiPS細胞においても視細胞マーカーを発現する細胞の出現を認めた。より高率に視細胞を誘導するための条件など今後の検討が必要であるが体細胞由来の細胞を誘導するための条件など今後の検討が必要であるが体細胞由来の細胞が移植治療において移植細胞の供給源となる可能性が示唆された。

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